アンドロイドの論点 : 「どうしてiモードの夏野剛氏は日本でアンドロイドが大きく普及すると考えるのか」

縁あってアンドロイドの論点というテーマでOCTOBAさんに記事を寄稿させていただきますgamellaです。アンドロイドの気になるポイントについて考察してみようとおもいます。
さて、今回のアンドロイドの論点は「どうしてiモードの夏野剛氏は日本でアンドロイドが大きく普及すると考えるのか」です。この話題の発端は先日iモード、おサイフ携帯を仕掛け現在ドワンゴでニコニコ動画黒字化担当として取締役をやっている夏野剛氏がTwitterでつぶやいた以下の2つのつぶやきです。


Twitter / 夏野 剛 Takeshi Natsuno: 数年でアンドロイドが世界の中高位機種の50%以上を占 …

数年でアンドロイドが世界の中高位機種の50%以上を占めることになると信じてます。RT @ykusanagi: @tnatsu
iPhoneシリーズ vs Android端末の視点では今後の展望をどの様に考えられていらっしゃいますか?

Twitter / 夏野 剛 Takeshi Natsuno: 以前もつぶやきましたが、僕がドコモの社長だったらすべ …

以前もつぶやきましたが、僕がドコモの社長だったらすべてのドコモガラケーをアンドロイドにします。RT @believerchannel:
スマートフォンを使いこなせない人はいつまでもガラケーで満足し続ける気がします。やはり二極化するような気がしますが、夏野さんの見解は

この2つのつぶやきが何を意味するのかを考えようというのが今回の「アンドロイドの論点」です。

世界と日本の携帯電話販売台数

このつぶやきの意味を考えるためには世界で販売されている携帯電話の数を理解するのが重要かと思います。
米Gartnerの調査によると2009年第1四半期の世界の携帯電話販売台数は12億1100万台。スマートフォンの同期の販売台数が1億7240万台で、前年同期比で48.7%増と5割近い大規模増加となったそうです。
2010年Q1の世界の携帯電話市場、スマートフォンが躍進 – Androidが急伸 | 携帯 | マイコミジャーナル

インドや中国への携帯電話の導入で携帯販売台数は微増しているのですが、それ以上にスマートフォンがすごい勢いで伸びているというのが現状です。
日本の携帯電話販売台数を見ても同じような状況が見て取れます。日本の携帯電話は2009年で3,390万台。そのうちスマートフォンが302万台ですが、このスマートフォンが2010年は50%増の475万台に達すると考えられています。
市場調査編 2010年国内のスマートフォン市場、iPhoneのシェアは低下、Androidのシェアは2倍に:ITpro

夏野剛氏はまさにこの状況を差して以下のように述べています。
Twitter / 夏野 剛 Takeshi Natsuno: スマートフォンという言葉がなくなった時にスマートフォ …

スマートフォンという言葉がなくなった時にスマートフォンが市場の主流になる。RT @tehutehuapple: @tnatsu
スマートフォンの未来を一言でお願いします。8/1のITイベントでのプレゼンでぜひ引用させていただきたいと思います。

普通の携帯電話台数は世界でも日本でも頭打ちになる中、スマートフォン市場はすごい勢いで伸びている。これはスマートフォンこそが普通の携帯になる可能性を示唆しています。

なぜ日本でスマートフォンの出荷台数が伸びると予測されているのか

なぜ日本でスマートフォンの出荷台数が伸びると予測されるのか、その最大の理由がアンドロイドです。2009年はiPhoneの影響で大幅にスマートフォン市場が伸びましたが、2010年はアンドロイドの影響でスマートフォンの市場が大きく伸びると考えられています。アンドロイドを多くの端末メーカーが採用するだろうと考える理由として、日本の携帯電話市場の現状を理解する必要があります。
まず、日本の携帯の販売台数がここ9四半期にわたり減り続けたという事実があります。
国内携帯電話市場、9四半期ぶりにプラス成長 ~IDC Japan調べ | RBB TODAY (エンタープライズ、モバイルBIZのニュース)

このおよそ2年にわたり販売台数が減り続けたものの1つの理由が過去に存在した販売奨励金という制度の廃止です。
皆さんの中でも、一円携帯や今まで12ヶ月待てば一万円位で機種変更できてたのに、今は4万円くらい払うようになった、と最近感じている人が多いのではないかと思います。この値段の変化の原因が何かというと販売奨励金の廃止です。昔は携帯を一台買うごとにドコモなどのキャリアが2万円、3万円の販売奨励金を販売店に出してきました。しかし3年ほど前にこの奨励金制度が廃止され、突然携帯電話の値段が軒並み2、3万円値上がりしたのです。この影響で何が起きたかというと、携帯電話の売り上げ、出荷台数自体が長期的に減少し続けました。この売り上げの低下の影響のため、各携帯端末メーカーは端末開発に前ほどお金をかけることができなくなりました。

単純に今まで一台の開発に10億円かかっていた場合、端末を100万台販売すれば、その開発費は端末一台あたり1000円程度と考えることができます。しかし、端末の売り上げが半分になったら以前と同じ端末を5億円で開発しないと赤字になってしまいます。これは極端な例ですが簡単に言うと、いま携帯端末メーカーはいかに安く開発を行うことが出来るかが大きなテーマになっているわけです。その時にアンドロイドのような開発効率の高い共通基盤は非常に魅力です。

また、最近の携帯電話に搭載されている機能を見てもわかりますが、もうどのような機能が搭載されているのかわからないくらい多くの機能が携帯電話には搭載されています。iBodymo、iコンシェル、iウィジェットなどなどドコモの携帯電話に搭載されている機能だけを見ても、過去よりもたくさんの機能が搭載されていることがわかります。ユーザのニーズに多様化に従い、いろいろな機能を提供する必要が出てきました。さらに、最近のiPhoneの売り上げを見てもわかる通り、日本人もだんだんスマートフォンと呼ばれる、より何でも好きなことができる携帯電話を好むようになってきています。さらに、現在携帯端末の魅力はiPhoneのような全体でどのようなアプリケーション、体験を提供するかにシフトしてきています。このような中で、アンドロイドが備える、多くの開発者が作成したアプリケーションがそのまま利用出来るコンテンツプラットフォームは非常に魅力的です。

日本でアンドロイド普及の鍵となるspモード、おサイフケータイ

このような状況を考えると、全体から見た売り上げ比率的にはまだまだ小さいスマートフォンですが、もしおサイフケータイがサポートされ、ドコモのiモードに接続可能なスマートフォンが登場すれば、個人的には今の数倍の人々がスマートフォンを利用するようになるのではないかと思います。すでにドコモはスマートフォン向けiモードであるspモードを今年9月から提供する予定です。
ドコモ、スマートフォン向けISP「spモード」開発 iモードメールアドレス、デコメ対応 – ITmedia News

spモードでは各コンテンツホルダーが心待ちにしているコンテンツ決済サービスが提供されます。対応コンテンツの購入代金を、毎月の携帯電話利用料金と合わせてドコモが徴収してくれるこのサービスは、その支払の手軽さも含め日本でiモード、携帯ゲームが普及する大きな要因になりました。
また、おサイフケータイのサポートもすでにドコモは2009年度決算発表で表明しています。
NTTドコモ辻村副社長「土管化リスク避けビジネスモデル変革」 | ビジネスネットワーク.jp

このspモード、おサイフケータイの展開がどのような影響を及ぼすか想像するのは難しくありません。現在の普通の携帯電話でできることが全て出来るスマートフォンが登場したら、いつしかその携帯はスマートフォンと呼ばれなくなり、携帯の標準はそちらに移行していくでしょう。このような動きの鍵となっているのがアンドロイドなのです。

日本の中上位機種携帯の半分がアンドロイドになる日

日本の中上位機種携帯の半分以上がアンドロイドになる、すでにこの予測は突飛なものでもなんでもなくなっています。将来的にはおサイフケータイ、spモードによるiモードアクセス、コンテンツ決済をサポートするアンドロイドが、スマートフォンではなく普通の携帯端末として日本に受け入れられていくのではないかと思います。残りの市場がiPhoneや、お年寄り、子供向け簡単操作の端末などスマートフォンの形状が嫌な人向けの携帯となるでしょう。

現在、携帯電話に期待される機能は驚くほど多様になっています。Twitterもしたい、ウェブもみたい、音楽も聴きたい、ウェブサービスと連携したい、などなどこのような機能を一から実装しようと思うと、その開発費は増大する一方です。その一方端末開発にかけることのできるお金は減り続けています。アンドロイドであれば、Twitterはこのクライアントアプリケーション、音楽はこれ、なとなどサポートしたいアプリケーションをあらかじめプリインストールしておくだけでさまざまな機能の対応は完了です。そして、おサイフケータイやiモードなど注力したい差別化可能な機能に開発費をかけることができます。

また、アンドロイドがiPhoneよりも日本市場で有望、受け入れられると考えられている理由はモバゲー、GREEなどのFlashゲームがspモードのコンテンツ決済機能の提供と伴に、一気にサポートされる可能性があるからです(追記:モバゲータウン、年内にスマートフォン版をリリース予定)。アンドロイドはiPhoneには搭載されていないFlash10.1という最新のFlashがサポートされており、今の普通の携帯電話で遊べるケイタイゲームで利用されているFlashLiteとはだいぶ異なるものの、それでもGREEやモバゲー側が対応を行うことで遊ぶことが可能です。また、これらコンテンツ提供側にとってなにより重要なのはiモードが提供している簡便なコンテンツ決済機能です。このコンテンツ決済機能が一般的になるに従い、人気のあるケータイゲームのプラットフォームがスマートフォンに一気になだれこんでくる可能性があります。

また、日本の端末メーカーは今後海外にも端末を売ることができるようになる体制が必要と言われています。それは日本の人口が減り、携帯電話端末の売り上げが頭打ちになるなかで、企業として売上を維持、増加する必要があるからです。日本では携帯端末メーカーの統廃合が大きく進んでいますが、海外で人気の出そうな付加価値の高い端末としてもアンドロイドが鍵になると考えられています。というのも一台5000円程度で購入可能な低価格携帯は、ノキアのような一企業が2億台の携帯を作る大規模企業の独壇場だからです。その携帯よりもさらに安い携帯を作るということは、その企業規模を考えてもなかなか難しいものです。それよりはWalkmanアンドロイド、G shockアンドロイドなどこれまで日本企業か育ててきた技術、ブランドを活かしたアンドロイドのほうが勝機があると考えられています。すでにソニーエリクソンはこの戦略で端末ラインナップを着々とそろえています。

これからも面白いサービス、アプリケーション、端末のアンドロイドが登場し、僕らを楽しませてくれることを期待しています。