突然ですが、皆さんはスマートフォンをどのような用途で使っていますか?
メッセージアプリで友だちとやり取りをしたり、SNSでつぶやいたりと色々な使い方があると思いますが、そのほとんどで文字を入力する場面があるかと思います。
そこで今回はオクトバ夏の自由研究企画として、首都大学東京の小町守准教授と、文字入力アプリ『Simeji』を提供するバイドゥ株式会社の高部幹人さんに文字入力アプリのあれこれを聞いてみました!
普段当たり前のようにしている文字入力がどのような仕組みで行われているのか、この記事を読めばきっと勉強になりますよ。
バイドゥのロゴと小町先生
――本日はよろしくお願いします。まず、小町先生は現在どういった研究をされているのでしょうか?
小町 : 私は大学の情報通信というコースにいるのですが、その中で特に自然言語処理という分野が専門です。例えば、Google翻訳やエキサイト翻訳など翻訳サービスのエンジンの研究や、検索エンジンの高精度化/高機能化などの研究をしています。
――ありがとうございます。今日は文字入力アプリということで『Simeji』の高部さんにも色々お話が聞ければと思っています。簡単な自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?
高部 : 私は『Simeji』の企画を担当したり、ビジネス面を見たりしています。
――ありがとうございます。文字入力アプリにかなり詳しいお2人ですので、色々ざっくばらんにお聞きできればと思います。
小町&高部 : よろしくお願いします。
――スマートフォンを使っていると必ず皆さん文字を入力すると思うんですが、実は文字入力アプリってかなり複雑なんじゃないかなと思っています。そもそも、文字入力アプリはどういう流れで今のかたちに落ち着いたのかをお伺いしたいのですが。
小町 : スマートフォンって表示できるスペースが狭いんですよね。日本語だと常用漢字だけでも2,000字以上あるので、それぞれ個別にキーを並べようとすると物理的に難しくなってしまうんです。
――ボタンがすごく小さくなってしまいますね。
小町 : そうなんです。なので文字を入力する仕組みを考える必要がありました。
英語であれば数十個の文字で表すことが可能なので、その数十個の文字を日本語に対応させて入力できるようにしたのが、ローマ字を使ったひらがな入力です。
ひらがなを入力した後、そのひらがなを今度は漢字に変換して入力することで、日常生活で目にするような日本語を入力できるという流れになっています。
――アルファベットよりも格段に複雑な日本語入力を、上手く解決したのが今の文字入力の仕組みなんですね。
小町 : そうですね。中国語も同じくらい複雑ですが、日本語と中国語以外の言語でここまで複雑なものはなかなかないです。
バイドゥの高部さん
――スマートフォンが普及してからフリック入力が登場しました。これが日本のユーザーに受け入れられた理由ってなんでしょうか?
小町 : 日本語はちょうど50音あり、あいうえおの5つの音で母音が区別ができます。
フリック入力だと[4方向にフリック]と[フリックせずにタップ]だけで5つの音が区別できるので、とても入力しやすく、自然に受け入れられたのではないでしょうか。
――フリック入力が浸透されたことによってスマートフォンの文字入力アプリも様々なものが登場しました。『Simeji』ではどういった経緯があったのでしょうか?
高部 : 『Simeji』は、もともと足立昌彦さんと矢野りんさんという2人の開発者が開発していたのですが、それをバイドゥ社が買収しました。買収を判断した決め手としては、少ない開発者ながら100万人規模のユーザーがいたことと、Androidの日本語入力アプリが当時あまり導入されていなかったことが言えます。
――本当に早くからリリースされていましたよね。その当時から『Simeji』を使っている方が多いように思います。
高部 : はい。特に海外在住の日本人の方などは、当時から『Simeji』を知っているという方が多いです。
――『Simeji』にはクラウド変換という機能がありますが、これはどういった仕組みですか?
高部 : クラウド変換は検索エンジンの仕組みに似ていると思っています。最適なものを統計的に出すという感じですね。どんどんと出てくる新語をクラウド側でリアルタイムに更新して、つい2〜3日前にTwitterで流行った言葉が出てくる。そういったことができるようになるサービスとして今やっています。
――『Simeji』以外のアプリで、こういった「クラウド変換」機能を持っているものってあるのでしょうか?
小町 : インターネット上で広く使われているのは「Google 入力ツール」ですね。文章を入力すれば他の言語に翻字してくれるサービスです。
海外にいると現地のパソコンでは日本語入力ができないので、非常に重宝します。
クラウド変換で流行もバッチリおさえる
――今では色々な種類の文字入力アプリが登場していますが、それぞれどういったところに違いがあるのでしょうか?
小町 : 変換のシステムなどは大体同じようなものを使っているので、あまり違いはありませんが、違いを挙げるとすればシステムに搭載されている辞書ですね。辞書にどのような単語がどれくらい登録されているかによって、文字入力にとても影響を与えます。
後はインターフェースなども他の文字入力アプリとの違いに繋がるのではないでしょうか。
――『Simeji』に関しては、独特な面白い顔文字の入力ができたりと、他の文字入力アプリとは違う部分がありますよね。辞書データの方向性などはやはりユーザーを意識して決めたのでしょうか?
高部 : そうですね。LINEなどのメッセージアプリや、TwitterなどのSNSで使われやすそうなものを意識的に作っています。
ひらがな/カタカナ/記号が混ざったフレーズや顔文字でも『Simeji』では一発で出てきますので、そこが『Simeji』の強さかなと思っていますね。
――標準の文字入力アプリだとネット用語などがなかなか出てこなくて、まるまる全部打たないといけないときもありますもんね。
高部 : そうですね。使われやすそうな用語を一発で出すことで、ユーザー負荷を軽減させることを意識しています。
『Simeji』ならAAもおまかせ
――文字の入力が楽にできる仕組みというのは、他にどういったものがあるのでしょうか。
小町 : 正しい漢字の候補が1回で出てくる変換の精度と、ユーザーの書きたい文章を提案してくれる予測入力の精度が大切になってくると思います。
――システムが予測をするときは裏でどのような処理が行われているのですか?
小町 : 例えば「き」と入力すれば「今日」や「危険」など「き」で始まる言葉が候補に入ってきます。出てくる頻度が高い順に順位を付けて、上位のものから入力の候補として表示させるのが基本的なアルゴリズムですね。
後は過去に自分が選択したものは上にあがりやすくなる「学習機能」というのもあります。
――予測の精度を高めるためにはどのような取り組みが行われているのでしょうか。
小町 : 予測入力に関してはこれだ!という決定版が無いので、まだどの文字入力アプリも色々なことを試している段階だと思います。特にスマートフォンだと、ユーザーによってどういう文字を入力するかが全く異なるので、なかなか難しいんです。
だからこそ過去に入力した履歴が使えると、その人が入れやすいフレーズが出しやすくなり、文字入力も快適にできるのではないかと思っています。
――若者言葉やネット用語など、言葉の移り変わりや変化に上手く対応する方法ってあるものなのでしょうか?
小町 : 自動で勝手に辞書ができるというのが1番楽ですね。ただし漢字は合っていても読みが違うということが起こりうるので、自動抽出だけでは問題があります。
かといって専門の人に手動で入れてもらうとなると、お金も時間もかかってしまうし難しいところです。
たぶん今1番効率の良い方法が、インターネット上で仕事を依頼して(クラウドソーシング)、色んな人から単語と読みを登録してもらって、それをチェックするというやり方ではないでしょうか。
――最後に、今後は文字入力アプリがどうなっていくのか、考えをお伺いしたいです。
小町 : 夜だったら「こんばんは」と入力したいだろうなとか、この友だちと話しているときはこういう文章だろうなとか、相手に応じて入力する内容が変わるシステムが出てくるのではないだろうかと思っています。
究極はブレインマシンインターフェースというもの。脳波を読み取って操作するという研究が盛んになっているので、そのうち頭で思うだけで文字が入力できる世界になるんじゃないでしょうか。
――面白いですね!
小町 : 後は、日本語を自動で他の言語に翻訳して、使っている言語が異なる方ともやり取りできる言語を横断した入力。あまり意識しなくても、支障なくコミニュケーションを取ることができるようになるのではないかと思っています。
それと音声入力もそうですね。音や画像を含めて入力/閲覧したり、言語の壁を超えて入力できたりということが、今後盛んになっていくのではないでしょうか。
――すごい未来ですね。そういう未来をぜひ『Simeji』さんにも作っていただきたいです。
高部 : 実は言語横断入力というのは『Simeji』でも実装しているんですよ。月額有料サービスではありますが、日本語で入力するとそのまま英語で出てくるので、海外の方と言語の壁を超えてやり取りができます。小町先生にもぜひ見て欲しいです(笑)。
日本でもグローバル化が進んでいるので、トライアルとしてまずは有料サービスから開始しました。
――なるほど。文字入力の未来が楽しみです。本日はありがとうございました!
スマホユーザーであれば毎日のように行っている文字入力。こんなに深い仕組みや裏話があったんですね。今の『Simeji』に落ち着くまでの経緯も知ることができて、とても興味深かったです。
IT/スマートフォン業界の流れは早いですので、5年後/10年後に文字入力というシステムがどこまで進化しているのか、これからも目が離せません!
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