あえてチープに作って累計4600万DL超。『にゃんこ大戦争』等の生みの親、升田氏の知られざる企画術と独立の真相
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升田 貴文 氏は全世界累計2,600万ダウンロードを突破したゲームアプリ『にゃんこ大戦争』の生みの親として知られています。
『にゃんこ大戦争』の開発・配信元であるポノス株式会社から独立し、株式会社イグニッション・エムを設立した升田氏に、新会社を立ち上げた経緯や第1弾となったゲームアプリ『ゲス野郎と拳』、大ヒットとなった『にゃんこ大戦争』の開発裏話、ヒットするゲームをつくる企画術、そして気になる次回作への意気込みなどをお伺いしました。
升田 貴文 氏のご紹介
株式会社イグニッション・エム
代表取締役 シードプランナー
升田 貴文 氏
累計2,600万ダウンロードを達成した『にゃんこ大戦争』の生みの親として、企画立案からキャラクターデザインなど多岐にわたり担当、世界的な大ヒットを生み出し、ほかにも累計2,000万を超えるダウンロードを誇る『Mr.Oops!!』などのMr.シリーズを手掛けておられます。(すべて合計すると累計4600万DL超)
ポノス株式会社の創業期や専務取締役などを経て2016年に独立し、株式会社イグニッション・エムを設立。
同社ではヒットを作るためのノウハウの伝授、およびヒットタイトルの種作り役(シードプランナー)としてスタッフを全面サポートされています。
新会社設立はゼロからのスタート
――ポノスに創業期から関わってきたうえで、自分でもやりたいと思ったきっかけは何でしょうか?
升田 貴文 氏(以下、升田):組織が大きくなり管理系の仕事が増え処理に追われてしまい、自分の時間というのも変ですけど、開発に時間を割けない、ということを感じ始めていました。
管理の仕事は仕方のない部分もあり嫌いではないのですが、やっぱりまだまだ自分で作っていきたい、という思いは強くありました。
ポノスを辞めて別の会社に就職する、という方法もありましたが、起業をしてゼロから自分でスタートするチャンスなんてなかなかないと思い、これはいいチャンスなんだと考えてイグニッション・エムをスタートしました。
――ポノスは京都に本社がありますが、イグニッション・エムは大阪に事務所を構えておられます。
升田:正直、場所はどこでもいいかなと思っていました。東京でもよかったのですが、ゲームを作っていけるスタッフを集めていくのも相当な労力と時間が必要で、僕自身がずっと京都にいた人間でもあり、起業時の初期メンバーの状況も鑑みた結果、じゃあ大阪だねという流れになりました。
いずれ会社が大きくなれば東京進出、といった展開を考える必要もあるかとは思いますが、まずは地盤固めをしっかりしたい、と思っています。
――肩書にある「シードプランナー」とはどのようなことをされるのでしょうか。
升田:僕に一番はまるポジションは、アイデアを出していって、よりゲームを面白くしていくよう役回りなのかなと感じています。
「シードプランナー」と書かせてもらったのは、企画の種作りみたいなところで、何か面白いネタを提供して活躍していきたいと思っているからです。種作りでいろいろと種を与えていくので、他の部分はもっとできる人にまかせて、育てていってもらえればということで、「シードプランナー」という役職をつけています。
――重要なコア部分を作ったあとの肉付けはみんなでやってもらう、ということでしょうか。
升田:そうですね。みんなでわいわい楽しみながらゲーム作りができたらいいなと思っていて、作っている最中の楽しさは作品にも影響されると思うんです。楽しみながら作ったものは楽しさが伝わっていくし、嫌々作ったり作業として作ったものはただ作業するゲームになってしまいます。
楽しいという思いを入れながらやっていかないとゲームは成り立ちません。
イグニッション・エム第一弾はネタに振った『ゲス野郎と拳』
――第一弾目『ゲス野郎と拳』はオクトバでも取り上げさせていただきました。
升田:ありがとうございます。結構ネタに振ったので、笑っていただければ。
――「ゲス野郎」をテーマにしたのは2016年初めの流行に影響を受けているのでしょうか。
升田:もともとのコンセプトとしてフリックしてボコボコ殴って気持ちいい、というものがあって、じゃあ殴っていいものって何だろうと考えたときに、勧善懲悪というわけではないけれど悪いやつ、となりました。
また、タイトルがキャッチーなものでなければ訴求力もない、ということで最初は「クソ野郎」を悪いやつの代名詞として、「クソ野郎と拳」というタイトルをつけていたのですが、アプリストアのNGワードだったらしくリジェクトされてしまいました。
――「クソ野郎」は確かに審査に引っかかりそうですね。
升田:どうしようかと考えていたときに「ゲス」かな、と思いついて「ゲス野郎」になりました。「ゲス」ブームはあまり考慮してなかったです。
――アプリのわかりやすさや検索されやすさも含めて考えると、タイトルはすごく重要ですね。
升田:すごく重要だと思います。なるべく覚えやすくキャッチーで、ついつい人に言いたくなって、ストアに並んだときに目立つ、長すぎず短いもの、ということを考えながら毎回めちゃくちゃ悩んでいます。
アプリがずらっと並んだとき、スクロールしている1秒~2秒が勝負で、その瞬間でアイコンとタイトルをパッと見て「何だこれ、ちょっと押してみよう」となるのが大事かなと思っています。
『ゲス野郎と拳』は全然ランキングに入ってないので目に留まらないんですよ。何かのきっかけでランキングに入れば手をとめてもらえるんじゃないかと思っています。
――ゲームの内容はかなり攻めている、と感じました。
升田:攻めすぎた感もあります。
まず会社の告知としても第一弾はインパクトのあるものを提供したいと思っていて、笑ってもらえればうれしいですね。フリックしたときの気持ちよさも追及して作っているので、だらだらとでも続けていってもらえればと思います。
――やればやるほど次のストーリーが気になって、久々に全クリしました。
升田:そのあたりはうまく作れたかなと思います。当初はストーリーもなかったのですが、途中でプレイ意欲がなかなか持続しないなと思って、じゃあストーリーをつけてしまおうということになりました。
僕個人としてはあまりつけたくなくて、感覚的に長く遊んでほしいなという思いがありましたが、あのゲームではストーリーをつけざるを得ませんでした。それでもよりいい形で収まったので及第点かなと思っています。
――『ゲス野郎と拳』のアップデート予定は?
升田:ちょこちょこアップデートはしています。これまでの対応で足りない部分もあるので、拡充していきたいなと思っています。
チープにしてツッコミどころを作った『にゃんこ大戦争』
――今でもアプリランキング上位にいる『にゃんこ大戦争』は異色のアプリでした。
升田:『にゃんこ大戦争』はなるべくとがらせるという部分と、遊んだ人が他の人に言わずにはいられない、というような要素をネタとして仕込んでいって、口コミで広げていくという部分を重視して作ってきました。
口コミで広めるためにどうしたらいいんだろうと考えたときに、隠しておきたいという気持ちと、こんなに面白いものを自分の内だけに秘めておくのはもったいない、誰かに伝えないと、という気持ちにさせようと思って「キモカワ」であったり「ネコ」というテーマを選びました。
今も続いているということは、それがうまく作用して常に広がっているのかな、成功したのかなと思っています。
――口コミで広げたいと誰もが考えますが、なかなか簡単にはいきません。狙ってできるのはすごいですよね。
升田:何かしらのツッコミどころや引っ掛かりを要所要所に作って、ツッコみたくなる、ついつい人に言いたくなるような仕組みを設けたのと、よくできたビジュアルを没にして若干チープにしたり、動きをぎこちなくする見せ方も意図的にしています。
見るからにリッチコンテンツで「これ面白いんだよ」と言っても、聞く人は「あぁ」「まぁ」「ふぅん」みたいな感じになってしまいますが、意図的にチープにしたことで「なんでこの人こんなに注目してるの?」「なんで熱狂してるの?」と食いついてくれる、ということがあります。
――逆にチープにするところが面白いですね。
升田:何かしらツッコめるようにしています。
まだあんまり噂にもなってないんですけど、11連ガチャで出てくるグラフィックが10個しかないんです。11連ガチャなのに。結果11個出てくるんですけど、誰かが気づいてツッコんでくれないかなって思っています。気づいた人は誰かに言いたくて仕方ないでしょう?
――言いたいですね。帰ったら家族に言います。
升田:そういうのを随所にちりばめて展開したので、今も長く自然流入も多いゲームになったのかなと思います。
ヒット作を生み出す「升田流企画術」
――ガラケーの時代からゲーム作っておられて、『Mr.AahH』などの「Mr.シリーズ」や『にゃんこ大戦争』とヒット作を生み出されていますが、「升田流企画術」みたいなものはあるのでしょうか?
升田:僕個人的にはアクション寄りのものが好き、得意だと思っています。
触ったときの感覚というのは文化を超えて誰にでも共通していて、触れば気持ちいいという部分はみんなが共通して楽しいもので、「Mr.シリーズ」や『にゃんこ大戦争』、イグニッション・エムの第一弾となった『ゲス野郎と拳』でもそうですが、触ったときの感覚をすごく大事にできています。
感触のよさをイメージしてとことん突き詰めて、前面に押し出してきたことが多くの人に響いてきたのではないでしょうか。
――触り心地の良さ、というようなものでしょうか。
升田:触り心地ですね。ガラケーの時代から現在のスマートフォンの時代でもそうですが、基本的にゲームで遊んでいない人をターゲットだと思っていて、そういったユーザに何を訴えていくかというと、シンプルな気持ちや誰もが共通して持っている感情を刺激していくことで、万人に楽しいものを提供できると考えて作っています。
――たしかに『Mr.AahH』も『にゃんこ大戦争』も操作方法さえわかれば外国の方でも普通にプレイできるような作りと感じます。
升田:よくクリエイターの方がやられているという話で僕も結構やるんですが、目を閉じて携帯電話を触りながら、これ気持ちいいな、これは気持ちよくないなとか、ボタンをタップしたり触ってみて、これだとつまらないなとか、こうすると楽しいな、などと試しています。
――あえて視覚情報をさえぎるというのは面白くて、ゲームだけでなくツールの使いやすさを知るのに使えそうですね。
升田:そうですね。そういった入口ともいえる部分はぶれずに作れているかもしれません。
――ゲームを企画するときは、最初にテーマがあって企画するのか、なんとなくひらめきが降りてくる感じか、どちらでしょうか。
升田:どちらもありますが、基本的にはひらめきのほうが大きいかもしれません。ひらめきにテーマをのせて商品として訴求性のあるものに仕上げていく、という流れが多いです。
――『ゲス野郎と拳』だと、この触っている感覚がひらめきということでしょうか。
升田:触っている感覚ですね。この感覚を再現したくて、どういうテーマをのせればいいのか、ということを考えたときに、暴力的なんだけれどもコミカルに描くとすればああいう絵柄になるのかな、というように考えをまとめていきます。
あとはできる範囲内でのグラフィック表現ということを考えると、かわいい路線にすると違うゲームになりますし、あの形が一番ベストな落とし所だったかなと思います。
――たしかに、勢いよくフリックするのは暴力的なニュアンスに合っています。
升田:暴力的な部分に関して、あの絵柄でかなり緩和はしているつもりです。倫理規定の問題もありますが、もしかしたらもっとリアルにすることでキャッチ―さが受けたかもしれません。
――企画を作るうえで重視されていることはありますか?
升田:企画を作るときは触り心地を重視しています。あとは初心者、ゲームユーザーじゃない人でも遊べるもの、という点を重視していますね。操作がいかにシンプルであるかどうかは大事だと思うから。
人によっては「ドラッグ」すら大変な作業だと思います。初めてスマートフォンを使う人はまず画面を「タップ」するでしょう。
だから1タップだけで完結するのが一番ベストですが、それではゲームとして成り立たないので、多少プラスアルファできる範囲内であれば誰にでも親しんでもらえるゲームが作れるのかなと思っていて、なるべくシンプルな操作となるようにしています。
気になる次回作は「にゃんこ」?
――次回作はどのようなものになるのでしょうか?
升田:次回作はよりゲームらしいものを作ってみたいなと思っています。もっとガッツリとしっかりと、長く遊べるもの、かつ誰でも遊べるもの、というところがベースとしてあり、あとは本当に楽しいと思って遊べるものです。
コアなゲームは他社様におまかせして、誰でも気軽に楽しく遊べるものを提供していきたいなと思っています。
また、『ゲス野郎と拳』がマニアックな方向に行きすぎたと感じているので、次はおそらくカジュアルなノリで、「にゃんこ」で考えていこうかなと思います。
――自分を越える、という意味合いも含めて。
升田:まあ、いけるんじゃないんですか?
――今、絶賛開発中ですか?
升田:その他諸々と会社の地盤固めをやっている途中で、これからですね。企画の内容を作っている最中です。ゲーム会社らしい遊び心をいれたオフィス作りをさせてもらったりして、やっと本当のスタートが切れるという感じがあるので、次回作はぜひ期待していただきたいです。
――期待しております。海外展開は意識されているのでしょうか。
升田:もちろんです。簡単に海外に展開できるマーケットがあるのに、日本だけで完結させるのはすごくもったいないと思いますし、会社で作ったものは全世界で遊んでほしいという思いもあり、常に狙って出していきたいです。
また、僕が作るものは直感的にわかるもの、操作が簡単なもの、言葉がいらないもの、という点を考えても海外に展開しない手はないでしょう。
――海外展開は他のデベロッパーさんも興味を持ち、うらやましく感じられていると思います。どうすれば海外に展開しやすくなるのでしょうか。
升田:周りの方々のお話を聞いていると、会社が大きくなるとどんどん難しくなるのかと感じています。会社からの要求が大きくて、どうすれば売れるのか、必要な広告費はどれくらいか、それをペイできるのか、と考えていった結果として、じゃあ海外には出さないでおこう、となってしまうのでしょう。
小規模であればあるほど、戦略的に海外展開する必要もあるでしょうが、まずやってみるということも必要なのではないでしょうか。僕は常にチャレンジしていきたいので、まずはやってみようというところからはじめていこうかなと思っています。
――最後に、オクトバの読者に向けてひとことをお願いします。
升田:『ゲス野郎と拳』、ばかなことをやっているな、とツッコみどころ満載のゲームを作ったので、ぜひプレイして、ぜひディスってもらえればうれしいです。まずはダウンロードして遊んでみてください。
次回作はもっとやり込み要素を、ゲームとしてもっとつかみを追求できるようなものを提供したいと思っています。次回作の期待も込めて、『ゲス野郎と拳』を見て何か想像してもらえればと思います。ぜひ遊んでみてください。
あと、スタッフも募集中です。
――本日はありがとうございました。
・株式会社イグニッション・エム – IGNITION M –
・ゲス野郎と拳|株式会社イグニッション・エム
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